昼夜が逆転するため朝起きられない病気
多くは、夜になると眠くなり、朝になると自然に目が覚めて1日の活動をスタートさせます。夜になると眠るのは、昼間の活動によって疲労した体や脳を休めるためはもちろんですが、実はひとつ大きな理由があります。
それは、体内には夜になると眠くなるという生体リズムが備わっているからです。心臓の鼓動、血圧や体温の変化、呼吸など、人間には数多くの生体のリズムが組み込まれており、睡眠・覚醒もその中の1つなのです。また、朝になると目覚めるのは、人をはじめ生物が持っている体内時計によってきっちりと時を計っているからです。
体内時計は、体の中でさまざまな生体リズムを発振しており、秒単位のものから月ごとにくり返されるものまでさまざまあります。
中でもよく知られているのが、1日単位のリズムです。これをサーカディアンリズム(概日リズム) といい、体内時計によって調節されています。
1日は24時間ですが、人間の体内時計は約25時間がベースとなっていて、約1時間のずれがあるのです。そこで、通常は脳が24時間の体外リズムに合わせて生活できるよう体内時計のほうで調節しています。ところが、現代社会のように人々が昼夜の別なく活動し、不規則な労働や昼夜が逆転した生活を送っていると、体内リズムが徐々に乱れ、体内時計が生活時間と同調できなくなり、睡眠の障害を引き起こしてしまうのです。
最近とくに急増しているのが、「睡眠相後退症候群」という睡眠・覚醒リズムの障害です。この病気は、簡単にいうと夜なかなか眠れず、朝起きられないという症状です。睡眠相後退症候群の人々は、体内時計が狂ってしまったために、ふつうの人にくらべて就寝時刻と覚醒時刻が著しく遅れています。そのため、朝起きられずに会社や学校に遅刻してしまうという深刻な問題を抱えています。よく誤解されがちですが、朝起きられないのは、「精神がたるんでいる」とか「根性が足りない」ということでは決してないのです。
また、遅くまで起きていることだけが悪い、早く寝ると問題が解決するということでもありません。原因を調べてみると、試験勉強のために徹夜をしたとか、深夜まで残業をしていたとか、だれにでも経験のある意外にふつうのことがきっかけとなることがわかりました。
たった1度の徹夜が原因で睡眠相後退症候群にかかってしまう人がいますが、そのような人たちは、体内時計を元に戻すような能力が一般の人にくらべて弱いということがいえます。逆に、いつでもどこでも眠れるというような人は睡眠相後退症候群にはかかりにくいようです。
ところで、眠けは体温と深く関わっていることを裏づける興味深い実験があります。午後11時に寝て午前7時に起きる、いわゆる朝型人間のA君(22歳・男性)と、午前4四時に寝て午後12時に起きる夜型人間のB君(23歳・男性) の体温の変化を調べました
。実験は同じ状況下で行われ、薄暗い部屋で安静にしてもらい、まったく眠らない状態で直腸温度を測りました。
本来、人間は体温が下がるとともに眠りにつきはじめ、体温が上昇すると目覚めて活動を開始します。
朝型人間と夜型人間とでは体温の変化がまったく異なっています。A君の場合、いつもだいたい熟睡している午前3時前後に体温がもっとも低くなっています。
それに対し、同じ条件でありながら、B君の体温がもっとも低くなるのは、A 君の6時間後にまでずれ込んでしまっています。体温の1日のリズムは、体内時計に支配されていることがわかります。
朝の光を目に入れて体内時計を整える
夜型の人は、昼夜が逆転し、明け方から昼にかけてがその人の夜に当たるため、当然朝起きられなくなります。これではふつうの社会生活に支障をきたしてしまいますが、ほとんどは生活指導によって改善されていきます。もっともよい治療法は、朝の太陽光を取り入れることです。ただ光を体に浴びるのではなく、目に入れることがポイントで、こうすると視神経が刺激されて外部の情報を受けた脳の体内時計は朝が来たと感知し、覚醒が起こるのです。
そこから新たに体時計がリズムを刻みはじめます。それでも治らない場合は、時間療法を行います。これは、就寝する時間が望ましい時間になるまで、寝る時刻を毎晩3時間ずつ遅らせていくという方法です。
たとえば、いつも午前4時に寝る人は午前7時に寝て、いつもの3時間ぶん眠ります。そして翌日は午前10時、さらに次の日は午後1時、午後4時、というように寝る時刻を遅らせていけば、1週間後には午後10時、あるいは午前1時には寝ることになり、それが決まった就寝時刻になります。
ただし、この治療法を受ける場合は、1週間は会社や学校を休んでもらうことになります。また、メラトニンというホルモンを投与するのも有効な手段です。
メラトニンは脳の中の松果体という器官から分泌されるホルモンで、眠りを誘発させます。いわば、太陽光が朝のサインならメラトニンは夜のサインといえます。いずれにしろ、朝きちんと起きるには、早く寝て睡眠時間をたっぷりとることよりも、起床時間を常に守ることが大切です。ブルーマンデー(憂うつな月曜日) という言葉がありますが、これは土・日曜日に夜更かしして朝寝坊するために、体内時計がずれて月曜日の朝がつらくなるのです。とはいっても、たまの休日ぐらいゆっくりていたいと思う人も多いでしょう。
ブルーマンデーを避けるには
土曜日は少し朝寝坊してもかまいませんが、日曜日にはいつもどおりに起きるようにしてください。寝足りなければ短時間の昼寝をするとよいでしょう。
就寝や起床の時刻や睡眠時間には個人差があり、一概にはいえませんが、本来、体内時計は日の出、日の入りに関係して動いています。その時計に逆らわないように体に負担をかけないためには、そのリズムに合わせて生活することが大切なのはいうまでもありません。