毎日ぐっすり眠るためのノウハウ

質の高い睡眠はガンをも防ぐ

体内時計の乱れは病気の原因になる

私たちが生まれたときから遺伝子(生物の遺伝形質を決める因子)の中に組み込まれている時計を、通常「体内時計」と呼んでいます。
このことは、最近、突き止められた画期的な事実です。

体内時計の周期は、太陽の運行に準じた腕時計や掛け時計など、グリニッジ天文台を標準時刻とする機械時計の24時間よりもやや長く、24.5~25時間です。ほうっておくと、体内時計と機械時計は、毎日最大1時間ずつずれていくことになります。このずれを調整するのは、体内時計のほうです。この調整によって、生体のリズムを外界のリズムに同調させているのです。しかし、その調整がうまくいかなくなって体内時計が狂い、生体リズムが崩れたときに私たちは体調を崩し、病気が誘発されるのです。

実は、私たちの遺伝子には、ガンや高血圧、糖尿病などのさまざまな病気の因子が組み込まれています。体内時計は、これらの病気因子の発現も管理しています。
病気はある日突然発病するのではなく、一定の時間をかけて徐々に進行し、最後に爆発します。いわば、時限爆弾のようなものですが、その時限爆弾のタイマーは体内時計にセットされているのです。

たとえば、胃ガンの遺伝子はだれもが持っています。問題は、いつ発病するかで、セットされているその時期は一人ひとり異なっています。

ある人の場合は30〇年であったり、ある人の場合は一生爆発せずに次の世代へと引き継がれます。ただし、タイマーが正常に働き、病気の時限爆弾が爆発しないのも、体内時計が順調に動いているという前提があってのこと。
もし、体内時計が狂い、生体リズムが崩れてくれば、遺伝子にセットされた病気の発病が早まりかねません。逆にいえば、うまく体内時計と生体リズムが調整された場合、発病が遅れることも期待できます。

以上のように説明してきたことは、今「時間医学」という1つの研究分野の成果として、注目されています。時間医学で大切なのは、常に体内時計を正確に保って、生体リズムに狂いを生じさせないことに尽きます。そして、この大切な生体リズムの調整を中心になって担っているのが、「睡眠」というわけなのです。

毎日決まった時刻に床につき、十分眠って一定の時刻に目覚める。このことが体内時計を正確に保ち、病気の発病を防ぐうえでひじょうに大切なのです。

寝入りばなに深い睡眠を得ることが重要

睡眠が大切なのは、生体リズムを正常に保つためだけではありません。私たちの体が持っている機能には、「昼型機能」と「夜型機能」とがあり、前者は主に起きているときに働き、後者は寝ている間に働きます。要するに選手が交代をするだけで、寝ている間も体は健康を維持するために必要な機能をフル回転させているのです。

両者の働きの違いは、一言でいうと以下のようなことになります。昼型機能はもっばらエネルギーを燃焼し、細胞を消耗、消失させます。逆に、夜型機能の役割は、昼間傷ついた細胞の修繕や補給で、起きているときに失った細胞を再生産しているのです。

細胞の増殖やたんばく質の分解や合成など、私たちの体のすべての代謝(新旧の物質の入れ替わり現象) は、睡眠時にもっともさかんになるのです。
睡眠は体の整備工場ということができます。睡眠が不足すると、こうした体の整備が完全に行えなくなり、それが毎日のように続けばやがては至るところで故障が起きて病気の発症を早めることになります。

つまり、睡眠不足は遺伝子にセットされたあらゆる病気のタイマーの針を、どんどん進めてしまうというわけなのです。以上のような活動は、寝入ってから目覚めるまで同じ調子で行われるのではなく、睡眠時間のちょうど中間にあたる時間に行われます。

8八時間睡眠の人なら4時間目が、6時間睡眠の人なら3時間目がそれに当たるわけです。この時間帯境に、睡眠の質が大きく変わってくるのです。寝入ってからこの時間までは、熟睡期で、ほぼ仮死状態になり、代謝活動もこの時間帯がもっともさかんになります。逆に、この時間を過ぎると、今度は脳が起きろと指令を出しはじめ、徐々に覚醒モードに突入し、代謝活動も鈍ってきます。このように、ひと口に睡眠が大事といっても、とりわけ前半にいかに深い眠りが得られるかが、健康のためには不可欠の条件になってくるわけです。

睡眠前は体温を下げる

睡眠の前半をより深く、体の整備工場の働きを活発にする「質の高い睡眠」のためには、「睡眠前に体温を下げること」がなにより大切です。
人間がなぜ眠るのか、科学的にはまったくわかっていませんが、ただ1つだけ明白なのは、「体温が下がってくると眠くなる」ということです。
雪山で遭難したときに猛烈な睡魔に襲われるのもそのためで、医学的にも証明されています。体温を下げるといっても、別に冷房をガンガンきかせたりして無理やり下げる必要はありません。眠るべきときがくれば、体温は自然に下がってきます。大切なのは下がろうとする体温を上げないようにすることです。

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