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深い眠りが肌の新陳代謝を活発化し、潤った生きた美肌をつくります

肌美人になりたかったら高い化粧品ではなくたっぷりの深い睡眠です

睡眠不足でお肌が荒れるというのは、女性の常識だと思います。いつも仕事が残業になったり、終電帰りの飲み会、ネットやメールのやり過ぎ、などなど。

医師も当直で眠れなかった次の朝は、いやーなかんじの脂で顔がべとついたりします。まず、肌=皮膚の問題から見ていきましょう。

皮膚は生まれ変わりを絶えず続けています。皮膚の奥のほうで新しい細胞が生まれて、だんだん表面のほうに移動し、古い細胞は表面から剥がれてきます。

この新陳代謝は、4週間周期で行われています。これが遅れがちになると、シワやシミ、たるみといった肌のトラブルにつながります。
この、新陳代謝に重要なのが、夜の睡眠、しかも深いノンレム睡眠=徐波睡眠なのです。秘密は、成長ホルモンにあります。成長ホルモンは子どもだけでなく大人にとっても大切です。

なぜなら、成長ホルモンには、細胞の分裂をうながし、皮膚を再生させるはたらきがあるからです。成長ホルモンは、皮膚再生工場のエネルギー源といえます。

そして深いノンレム睡眠、徐波睡眠という段階で、もっとも活発に分泌されます。徐波睡眠は、寝入ったばかりの夜11時ごろから2時ぐらいまでの睡眠前半で、もっとも深くなります。

この時間帯は、俗に「お肌のゴールデンタイム」と呼ばれるそうですが、この深い睡眠がとれないと、お肌がボロボロになりかねません。アンチ・エイジングにお金を費やすのも自由ですが、充実した深い睡眠を確保するのも大切なアンチエイジングだと思います。

入眠3時間後に成長ホルモンの分泌がピークになる

よい睡眠をとって「幸福顔」になろう

最近の女性誌では、肌美人ならぬ「脳美人」という言葉も見かけます。自己の内面を磨いて、性格や生活スタイルからそのひとの美しさを表現していく、といったニュアンスだと思います。

だとすれば、睡眠は「脳美人」になるためには、絶対に必要です。睡眠不足になると、脳の内部の扁桃体という部分が活発になります。
扁桃体は人間の情動、特にネガティヴな感情のコントロールに強く関与しているところです。しかし、睡眠不足によって、扁桃体をコントロールする前頭前野の機能は弱くなります。寝不足でイライラしてくるのは、このためです。イライラしている人間は、他人をもイライラさせてしまいます。

1996年の「ネイチャー」誌に掲載された論文では、恐怖に満ちた、あるいは心配そうな顔の写真を見せたときのほうが、幸せな顔を見せたときよりも扁桃体の活動が活発であったと報告しています。

寝不足で情緒不安定な顔をしていると、他人の扁桃体もムダに活性化してしまい、まわりのひとまでも不愉快にきせるのです。

不穏な空気が場を占めていれば、会話も盛り上がらず、コミュニケーションもうまくいきません。これではいくら美人(イケメン) でも、「美しい」ひととは認識されません。

「肌美人」と「脳美人」のどちらにも睡眠がからんでいるのは、おわかりいただけたかと思います。雑誌やテレビで睡眠と美容の話題がよく出ますが、皮膚の新陳代謝に関する話題がほとんどです。しかし、脳からきれいになるということも科学的に根拠がある、ということを頭に入れて置いてほしいと思います。

十分な睡眠をとることで太りにくい体質に変わる

ぐっすり眠ればスリムな体になる

すっかり国民的な認知度を得た「メタポリックシンドローム」。ここでは通称の「メタボ」です。屈辱的な腹囲測定など、「やり過ぎだ! 」という批判も強いようです。

わたしも正確な定義は、把握していません。調べたところでは、内臓脂肪型肥満に高血糖・高血圧・高脂血症(脂質異常) のうち2つ以上が合併した状態を指すようです。

しかし、お腹の出たただの肥満(単純性肥満)でも、世間では「メタボ」と表現されてしまっているようです。肥満は確かに、健康にいいことではありません。「そんなことは百も承知だから食事もカロリー控えめにしているし、週末はジムに行っている」と、メタボ対策の実践を語られるかたもいると思います。

もちろん、こうした生活習慣の改善は大切ですし、効果的です。そして、それにさらに「ぐっすり眠る」が加われば、いうことなしです。

「寝ないと太る」は、徐々に常識となりつつあります。副腎皮質ステロイド( ステロイド)というホルモンがあります。何度か登場しているコルチゾルも、ステロイドの一種です。ステロイドは副腎皮質で作られますが、気管支喘息やアトピー性皮膚炎、ネフローゼ症候群などの腎臓病の治療薬でもあります。ステロイドの副作用としてはいろいろあるのですが、肥満と精神症状というのは、医学界の常識です。

ステロイド、レプチン、グレリンが肥満を促進?

ステロイドは「元気のホルモン」と称きれることもあり、人間がストレスを感じたときに分泌されるホルモンです。睡眠不足というストレスにさらされていると、1日のステロイドの分泌量が増えてしまいます。

そうすると、ステロイドの副作用が表に現れてしまう、こういう仮説も成り立ちます。睡眠不足と肥満との関係は、ステロイドのほかに、肥満物質のレプチン、グレリンの関与も考えられています。

レプチンは脂肪細胞から分泌されているホルモンのことで、交感神経を活発化させ、エネルギーの燃焼をうながします。つまり、肥満をコントロールするホルモンなのです。

グレリンは、胃で作られるホルモンで、食欲増進作用があります。睡眠時間が短いと、エネルギーを潮境させるレプチンが掘ってしまい、グレリンが増えて食欲が増し、より食べてしまう。結果的に体重が増えるスタンフォード大学のグループが、2004年の「プロス・メディスン」誌に発表した研究によると、8時間睡眠と5時間睡眠のひとを比べたところ、後者のレプチンは15.5 % 減、グレリンは14.9 % 増でした。この結果からすると、睡眠が少ないほうがエネルギーは燃焼きれにくく、しかも食欲が増す、ということになります。
とはいえ、はっきりしたメカニズムが解明されているわけでもなく、今後の解明が待たれる分野です。

不眠と肥満の脳科学はここまで進んでいます

前述したように、肥満によって喉の空気の通り道が狭くなり、睡眠時無呼吸症候群になりやすくなります。睡眠時無呼吸症候群になると、眠れなくてつらいのはもちろんのこと、うつ病や高血圧、糖尿病、さらには心筋梗塞や脳卒中といった生命の危険を伴う病気のリスクが高くなってしまいます。

脳科学からも、不眠と肥満との関係があきらかになってきています。カリフォルニア大学バークレー校のMRIを用いた研究では、睡眠不足の被験者は、食欲や満腹感をコントロールする前頭葉や島皮質といった脳部位の活動が低下していたのです。

さらに同時に、食欲をかき立てることに関連する脳部位は、睡眠不足の被験者で活発になっていました。2013年の「ネイチャー・コミュニケーションズ」誌に発表された内容です。寝不足になると、脳の食欲のスイッチがオンになり、我慢するスイッチはオフになってしまうようです。肥満は万病のもとです。食事、運動だけでなく、良質な睡眠も有力なダイエット手段、と断言できます。

物忘れがきになるようだったら「眠りの質」をふりかえってみる

寝不足と記憶力の低下の関係性

先日「最近、寝不足気味で、記憶力もすっかりいまひとつで困っちゃいます。わたし、ボケてきていないか、MRI検査をしたいのですが」と不安そうに話される還暦過ぎの女性がいらっしやいました。

若いひとならば、(寝不足→ 記憶力低下) はすんなり受け入れられますが、ある程度の年齢になると、「もしや認知症の初期では?」という心配をお持ちになるかたも少なくないと思います。

さて、寝ていないと認知症になりやすいのでしょうか?実は認知症予防と睡眠とを扱った研究は多くありません。しかし適切な睡眠をとることで、脳神経細胞のシナプス結合が調整され、学習機能の向上や記憶力を増強させることはわかってきています。

高齢者で不十分な睡眠が続いていると、睡眠中のこの記憶の統合と強化が行われません。不眠のストレスも加わり、脳神経細胞にダメージが加わることも十分考えられます。

認知症に進んでいく危険性がゼロだとは言い切れません。予防のためには、早期発見と日々の注意が大切です。「軽度認知障害」という概念が、最近ではよく使われます。

健常者より忘れっぽく、認知症患者さんよりもの覚えがいいという、なんともあいまいで、グレーゾーンといわれても仕方のない診断名です。

「このごろ、いわれたこともすぐ忘れちゃうし、メモをとらないといけないな」とこぼしていても、日常生活に支障をきたしていなけれぼ、軽度認知障害ということになります。
「オレは軽度だからいいや」、と侮ってはいけません。軽度認知障害の約1割のひとが、3年後には認知症に移行するともいわれており、軽度認知障害はアルツハイマー型認知症の黄色信号ともいえるのです。

そして軽度認知障害のかたは、睡眠に問題のあるかたが多いのも事実です。

もの忘れ外来で不眠治療が効くこともある

アメリカ・メリーランド州の世界的な名門医科大学、ジョンズ・ホプキンス大学のグループが、2002年に医学雑誌「JAMA」に発表した論文があります。

総勢36 08名の老人のかたを10年にわたって調査した研究で、軽度認知障害と診断された患者さんは計320人でした。この軽度認知障害の患者さんにもっとも頻繁に見られた、はっきりした臨床上のサインは睡眠障害で、8.8% でした。

睡眠不足だけが軽度認知障害1認知症に進行させる犯人というわけではないですが、睡眠のトラブルは認知症が生じる警告なのかもしれないですし、逆に早期発見の手がかりともいえそうです。睡眠不足と記憶力低下が1ヶ月以上持続するようならば、精神科か心療内科、ないしは専門の外来(もの忘れ外来、睡眠外来)を受診されることをおすすめします。

意外なことかもしれないですが、うつ病によって不眠、もの忘れ、集中力低下をきたしているかたが多いのです。

還暦過ぎの女性も、よく話を聞けば財産相続の悩みなどで気分も晴れず、好きな日本舞踊もできないなど、うつ病の症状が見え隠れしていて、少量の抗うつ薬を服用しはじめたところ、睡眠も記憶力低下もよくなりました。
うつにはヌーススピリッツ

頭のMRIも念のために検査しましたが、萎縮などの異常はなく、ど本人にご自身の脳の画像をお見せして「大丈夫! 」と説明したところ、たいへん喜んでおられました。

もの忘れは、心配し過ぎはよくないですが、眠れないのと重なってきたら要注意です。気にしているだけでは不安が増すばかりですから、ぜひ睡眠外来や心療内科などで一度ど相談なさってください。