物忘れがきになるようだったら「眠りの質」をふりかえってみる

寝不足と記憶力の低下の関係性

先日「最近、寝不足気味で、記憶力もすっかりいまひとつで困っちゃいます。わたし、ボケてきていないか、MRI検査をしたいのですが」と不安そうに話される還暦過ぎの女性がいらっしやいました。

若いひとならば、(寝不足→ 記憶力低下) はすんなり受け入れられますが、ある程度の年齢になると、「もしや認知症の初期では?」という心配をお持ちになるかたも少なくないと思います。

さて、寝ていないと認知症になりやすいのでしょうか?実は認知症予防と睡眠とを扱った研究は多くありません。しかし適切な睡眠をとることで、脳神経細胞のシナプス結合が調整され、学習機能の向上や記憶力を増強させることはわかってきています。

高齢者で不十分な睡眠が続いていると、睡眠中のこの記憶の統合と強化が行われません。不眠のストレスも加わり、脳神経細胞にダメージが加わることも十分考えられます。

認知症に進んでいく危険性がゼロだとは言い切れません。予防のためには、早期発見と日々の注意が大切です。「軽度認知障害」という概念が、最近ではよく使われます。

健常者より忘れっぽく、認知症患者さんよりもの覚えがいいという、なんともあいまいで、グレーゾーンといわれても仕方のない診断名です。

「このごろ、いわれたこともすぐ忘れちゃうし、メモをとらないといけないな」とこぼしていても、日常生活に支障をきたしていなけれぼ、軽度認知障害ということになります。
「オレは軽度だからいいや」、と侮ってはいけません。軽度認知障害の約1割のひとが、3年後には認知症に移行するともいわれており、軽度認知障害はアルツハイマー型認知症の黄色信号ともいえるのです。

そして軽度認知障害のかたは、睡眠に問題のあるかたが多いのも事実です。

もの忘れ外来で不眠治療が効くこともある

アメリカ・メリーランド州の世界的な名門医科大学、ジョンズ・ホプキンス大学のグループが、2002年に医学雑誌「JAMA」に発表した論文があります。

総勢36 08名の老人のかたを10年にわたって調査した研究で、軽度認知障害と診断された患者さんは計320人でした。この軽度認知障害の患者さんにもっとも頻繁に見られた、はっきりした臨床上のサインは睡眠障害で、8.8% でした。

睡眠不足だけが軽度認知障害1認知症に進行させる犯人というわけではないですが、睡眠のトラブルは認知症が生じる警告なのかもしれないですし、逆に早期発見の手がかりともいえそうです。睡眠不足と記憶力低下が1ヶ月以上持続するようならば、精神科か心療内科、ないしは専門の外来(もの忘れ外来、睡眠外来)を受診されることをおすすめします。

意外なことかもしれないですが、うつ病によって不眠、もの忘れ、集中力低下をきたしているかたが多いのです。

還暦過ぎの女性も、よく話を聞けば財産相続の悩みなどで気分も晴れず、好きな日本舞踊もできないなど、うつ病の症状が見え隠れしていて、少量の抗うつ薬を服用しはじめたところ、睡眠も記憶力低下もよくなりました。
うつにはヌーススピリッツ

頭のMRIも念のために検査しましたが、萎縮などの異常はなく、ど本人にご自身の脳の画像をお見せして「大丈夫! 」と説明したところ、たいへん喜んでおられました。

もの忘れは、心配し過ぎはよくないですが、眠れないのと重なってきたら要注意です。気にしているだけでは不安が増すばかりですから、ぜひ睡眠外来や心療内科などで一度ど相談なさってください。

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