精神的ストレスによる不眠
過度のストレスを抱えていたり不安にさいなまれたりしていると、血圧が上がって心臓がドキドキしたりしますが、これは交感神経が優位になっているからです。ストレスは、生体にとって心身に大きな影響を及ぼすいわば外敵にあたり、生体は敵に対して防御体制をとるため、活動に適した交感神経を優位にします。
しかし、この状態ではなかなか眠りにつくことはできません。眠りが浅い、夜中に2目が覚めるなど、不眠症の多くはストレスが原因によるものといえるでしょう。
これを「精神生理性不眠症」といい、一過性のものと持続性のものとがあります。
持続性の精神生理性不眠症は、別名「神経質性不眠症」とも呼ばれています。これは、神経質な人に慢性の精神緊張や不安が加わって起こります。
精神緊張や不安は、本人がはっきりとは自覚しない場合が多く、むしろ身体的緊張、すなわち筋肉の緊張の高まり、落ち着きのなさなどとして現れ、不眠を起こします。
患者の多くは、こういった不眠の原因に気づいておらず、体質のせいだと考えています。また、自分の寝室に行くと、今夜も眠れないのではないかと心配するので、夜、寝室、枕などと「不眠」が条件反射的に結びついてしまうことも原因の1一つです。一般的に不眠症といわれるものの大部分が精神生理性不眠症です。
一過性の場合は、一時的なストレスや不安や緊張による感情の興奮などによって引き起こされますが、原因となる出来事がはっきりしており、それを取り除いたりその状況になれたりすれば、不眠の問題もほぼ解決します。しかし、不眠が1ヶ月以上も続く場合は、持続性精神生理性不眠症といって改善がなかなか」困難となってきます。
概日リズムの乱れが不眠を招く
概日リズムに関連した主な睡眠障害には、時差症候群、睡眠相後退症候群、非24時間睡眠覚醒症候群などがあります。
時差症候群(時間帯域変化症候群)
睡眠・覚醒の時刻を急に変更すると、身体の概日リズムと社会生活時間の間にズレが生じ、睡眠が障害されます。これが、いわゆる時差ボケです。
たとえば、時差が6時間ある外国に出かけた場合、現地時間では真夜中であっても、体内時計はまだ午後6時なので、眠ろうとしてもなかなか寝つけず、睡眠も浅くなります。身体リズムは昼間に相当する時期なので体温が高く、そのためなかなか眠りにつくことができないのです。
反対に、身体リズムが低い夜の時期に渡航先の時刻が昼間に当たるときは、眠くてたまらず、頭がボーッとしたりします。概日リズムが新しいリズムに変わるには、数日から1週間ぐらいかかりますが、一般に若い人は高齢者よりも早く時差に適応できます。
睡眠相後退症候群
極端な夜更かし・朝寝坊が続いて正常に戻すことができないものをいいます。「朝起きられないのは、夜更かしするからだ。早く寝れば問題は解決する」というわけにはいきません。これは、睡眠が起こりやすい体温が低くなる時間帯が一般の人とずれてしまっているために、いくら早く寝ようとしても眠れず、それにともなって朝も起きられなくなることによるもので、一種の生体リズム調整の障害なのです。
寝るのが遅くても入眠でき、睡眠の深さや持続にあまり異常はみられませんが、朝起きられないので社会生活に支障をきたします。
非24時間睡眠覚醒症候群
1日は24時間ですが、概日リズムはそれよりも約1時間ほど長い25時間前後です。この1時間のずれは、朝の目覚めによって毎日リセットされており、人間には概日リズムを外的生活リズムに同調させる働きが備わっています。
ところが、非24時間睡眠覚醒症候群は、この働きが失われているので生体リズムは25時間の周期で進行していき、睡眠・覚醒リズムも25時間で回転します。そのため、生体リズムと社会生活の時間帯が1〜日に1一時間ずつ遅れていき、やがて昼間に生体リズムの活動が低い(体温が低い) 時期が来ると、昼間起きていようと思っても眠くてたまらず、逆に夜には寝ようと思っても眠れなくなるのです。
ライフスタイルの乱れによる不眠
質のよい睡眠を得るための日常生活上の心がまえを「睡眠衛生」といいますが、睡眠は、ライフスタイルにも大きく左右されます。
騒音や室内の照明の度合い、温度や湿度などによってなかなか寝つけなかったり、眠りが浅かったり、中途覚醒したりするなど、睡眠はそれを取り巻く環境によって、大きく影響されます。
また、コーヒーや紅茶、緑茶に含まれるカフェインには、覚醒作用があります。さらに、適度なアルコールは精神的な緊張をほぐして入眠を促進させますが、大量に摂取するとレム睡眠を減少させて睡眠の質を低下させることになります。
また、短時間の昼寝は有効ですが、夕方になってから昼寝をすると睡眠促進物質が分解してしまうので、寝つきが悪くなる原因ともなります。このように、不規則な睡眠習慣を続けていると、体内時計に狂いが生じて夜眠れなくなったり、朝起きられなくなったりということが起こるのです。
病気が原因の不眠
神経症は一般にノイローゼとも呼ばれ、職場や家庭内の精神的な原因で極度の不安や精神緊張が起こる状態で、不眠も起こりやすくなります。
躁うつ病のうつ状態のときやうつ病は、眠りが浅くて中途覚醒が多く、早く目が覚めて朝まで寝床のなかで悶々と考え込んで、絶望的な気持ちに陥ってしまうというのが特徴です。
一方、躁状態で興奮が強いときは一晩じゅう眠らないことも少なくなく、朝早く目覚めて活動をはじめることもしばしばです。精神分裂病は思考や感情、人格などに障害が生じるもので、ふつう思春期から青年期に多く発病します。被害妄想や幻聴(何の刺激もないのに何かが聞こえるように感じること)などが現れ、生活も不規則になって夜も眠れなくなります。
れら精神疾患のほかに、脳出血、脳梗塞(脳の血管が詰まって起こる病気)、パーキンソン病、老年痴呆など脳に障害が生じる疾患も不眠と深く関係しています。また、睡眠中に呼吸」困難を起こす閉塞性肺疾患やぜんそく、リウマチやアレルギーなど痛みやかゆみをともなう柄気も眠りを妨げ、不眠を起こします。
さらに病気の治療に使われる薬剤、たとえばぜんそくの治療薬やステロイド剤、降こうじようせん圧剤、甲状腺製剤などの服用で、不眠を招くことがあります。
条件づけで左右される睡眠
たいていの人は毎日同じ場所(寝室)へ行き、同じベッドで、同じ枕をして眠りにつきます。これは、いわば眠るための条件づけになり、このような行動が条件反射的に睡眠を誘発します。ところが、たまたま何かが原因で眠れなかったときは、それが不眠と条件反射的に結びついてしまうことがあります。
たとえば、自分の寝室に行くと「また今夜も眠れないかもしれない」などと思ってしまいます。自宅の寝室で寝るより旅先のほうがよく眠れるという人がいますが、これは寝室などの外部環境が条件反射的に不眠と結びついているからです。
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