快眠は健康に欠かせない
健康の基本といえば、「快食、快便、快眠」ですが、このうち「快眠」加齢とともに難しくなってきます。というのは、加齢にともなって眠りの質が若いころにくらべて変わってきてしまうからです。青年の睡眠は、一般にふとんに入ってから30分程度で深い眠りに到達し、30分ほどその状態が続き、次に眠りが浅くなってレム睡眠(素早い眼球運動を特徴とする睡眠の一形態) に移り、そのあとノンレム睡眠(レム睡眠でない睡眠) に入ります。これを一晩に4~5回くり返しながら徐々に浅いノンレム睡眠が多くなり、レム睡眠が続くようになって目覚めるのです。
一方、高齢者は寝つきが悪く、眠りに入ってもあまり深い眠りは得られません。そのうえ夜中に何度も覚醒(目が覚めること) するため、レム睡眠とノンレム睡眠が規則的にくり返されなくなります。これでは熟睡感を味わうことはなかなかできません。深く眠れなくなるのは、睡眠をつかさどっている脳の働きが低下するためと、睡眠時の無呼吸状態に対する体の反応が低下してくることが原因としてあげられます。
ふだん無意識に呼吸していますが、起きているときはスムーズな呼吸ができても、眠りにつくとあまりうまく呼吸ができなくなります。呼吸を止めると体に炭酸ガスがたまり、健康な人はその刺激で再び呼吸するようになるのですが、高齢者の場合は炭酸ガスの刺激への感度も落ち、呼吸がとぎれることがあります。
こうした睡眠時の無呼吸が5秒以上続くと、酸欠で目が覚めてしまうわけです。さらに、年をとると夜間ミオクローヌス(睡眠中に足のすねの筋肉が規則的にピクピタとけいれんを起こすこと) が起こりやすくなるため、夜中に目を覚ましてしまうのです。
頭と体をフルに働かせて生活を充実させる
それでも、生活方法を変えることで質のよい睡眠を得ることが期待できます。そのヒントを見つけるために、実施した南米エクアドルのビルカバンバ村での高齢者の睡眠についての調査を紹介しましょう。ビルカバンバは、世界の三大長寿地域の1つといわれています。
調査の対象は、教会の洗礼者名簿などで生年月日を確認できた80歳以上の高齢者20名で、1日の全睡眠時間の平均は、男性は7.4時間、女性が7.8時間でした。そのうちの8名(男女各4名) について、睡眠時の無呼吸と夜間ミオクローヌスの出現を調べたところ、睡眠時の無呼吸があったのが8名中1名、夜間ミオクローヌスを示した人は1人もいませんでした。つまり、それだけ睡眠を妨げる要素がなく、質のよい睡眠をとっているということがいえるわけです。アメリカのある調査では、高齢者の6割以上にこれら2つの睡眠障害が認められていますから、ピルカバンバ村での出現率がいかに低いかがわかります。
それを理由づける要素として、まず第一に薬物の乱用がないことがあげられます。次に、気象条件が一定で、年間を通して気温が18~24度、湿度60% と快適なため、人体に多大なストレスを与えないことも大きな要因となっています。また、海抜1500mの高地で、気圧が0.8気圧と低く、呼吸器や循環器に適度な刺激となり、その機能が高められていると考えられます。
さらに、1日3~6時間の労働や丘陵地を歩く運動が、呼吸器や循環器の機能を高めていることも見逃せません。ビルカバンバ村で、ひじょうに質のよい睡眠をとっていた高齢者の1人は、80歳でしたが、農園の経営を現役で続けていました。逆に、現役から引退して日中仕事をしていない人は、夜の眠りが浅くて何回も目が覚め、昼寝をしていました。頭と体を使って日中充実した生活を送っていれば、よい睡眠がとれるのです。
日本の高齢者も、日中よく体を動かし、知的な刺激を受けて脳を活発に活動させるよう心がけることが、よい睡眠をもたらし、ひいては長寿につながるカギとなるといえるでしょう。
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