ボケを防ぐ眠り方

短時間の昼寝が高齢者の不眠に有効

高齢になると、睡眠がうまくとれなくなる人が増えてきます。不眠は、高齢者の生活全般の質を悪化させる原因ともなります。

というのは、睡眠不足になることで高齢者の社会活動や家族・友人との協調的な生活が阻害されることになり、ますます内に引きこもりがちになってくるおそれがあるからです。

さらに、脳の機能の働きが阻害されるため、運動神経や反射神経が鈍り、ちょっとしたことで転んだり、ぶつかったりすることが多くなり、このことが寝たきりのきっかけとなることもあります。睡眠障害の中でも、とくに高齢者に多くみられるのが、不眠症です。不眠症は、50歳以降の初老期から老年期にかけてふえ、とくに女性の発症率がふえることが知られています。

不眠には、寝つきが悪い、睡眠中にしばしば目が覚めてしまう、まだ眠いのに朝早く目が覚めてしまって再び眠ることができない、じゆうぶんな時間眠ったのに、熟睡感が得られない、などのタイプがあります。

また、高齢者にとくに多いのが、1ヶ月以上も眠れないと訴え続ける、長期にわたる不眠です。不眠症に対する治療法はいろいろありますが、最近、自分でできる対策として、昼寝の有効性が注目されるようになりました。これまでは、高齢の不眠症患者に対して、昼寝を禁止する指導が行われてきました。

日中の昼寝が夜間の睡眠の妨げになると考えられてきたからです。しかし、実際に夜間の睡眠を妨げていたのは、夜間の主睡眠間際の眠りや、1時間以上にわたるような昼寝でした。これらは、夜間にとるべき睡眠が、不規則に日中に入り込んだものであり、こうした居眠りが主睡眠前の脳に悪影響を与え、不眠を招いていたのです。逆に、短時間の昼寝を習慣的、積極的にとっている高齢者には、日中の居眠りやう不眠症の発生が少ないことが調査の結果明らかになりました。

大切なのは深い眠りに入る前に起きる

実際に行った実験でも、60~79代の男女に、午後1~2時の間に30分間の昼寝を習慣的にとってもらったところ、眠りに入りやすくなり、しかも睡眠中に目が覚めることが減少し、起床時に熟睡感が得られることが実証されました。

また、統計的には健康な睡眠の人が多い沖縄の那覇圏と睡眠障害の多い東京圏で、高齢者の生活習慣の比較調査を行ったところ、那覇圏では、週三日以上昼寝をすると回答した人の割合が格段に高く、一方、東京圏では夕方に居眠りする人の割合が那覇圏にくらべて2倍以上もありました。これらの結果からも、午後1~2時の間に30分以内の昼寝を行うことは、高齢者の場合、昼寝から覚めてから夕方にかけての活動状態を、質的に改善することがわかります。これが、夜間不眠を改善する直接的な効果であると考えられます。ここで、昼寝を行うときの注意ですが、昼寝は毎日行わなくてもかまいません。最低週3回以上、意識的、習慣的に昼寝を行えばよいと考えてください

また、30分間という昼寝時間ですが、30分間熟睡するということではなく、横になってから起き上がるまでの時間です。この昼寝は、深い睡眠に入る前に目覚めることがポイントです。深い睡眠に入ってしまってから起きたのでは逆効果なので、昼寝の前には必ず目覚まし時計をセットして、30分以内で起きるようにしてください。

深い眠りに入りにくい高齢者は30分でもだいじょうぶですが、深い眠りに入りやすい成人期から中年の方は20分間、お子さんは15分間を目安に起きるとよいでしょう。

また、昼寝をする時間は起きてから7時間後が最適です。若いうちは1日でいちばん体温が上がる少し前の午後3~4時に眠くなりますが、高齢者の場合、就寝時間と起床時間が若年者とくらべて2時間ほど早くなっているので、昼間に眠くなる時間も2時間ほどずれます。高齢者に適した昼寝の時間は午後1~2時になります。このほか、朝起きたら一度外に出て日光を浴びたり、午後5時ごろ散歩をしたりすることも健康な睡眠の確保のために効果的です。

アルツハイマーを予防する効果も

30分間の規則的な昼寝が、アルツハイマー病(脳の組織が萎縮して痴呆に至る病気) の発症の危険性をなんと5分の1にまで下げるという調査報告があります。
この研究によると、1時間以上の昼寝習慣ではアルツハイマーの予防効果はないということです。睡眠には一定時間以上眠りに入ってしまうと、脳も体も深い眠りに向かい、じゆうぶんに眠りきらない状態で起きようとしても、覚醒への切り替えがうまくいかなくなる性質があります。

1時間以上の長時間の昼寝では、昼寝後も半分眠っているようなボーッとした状態が続いてしまうのはそのためです。一方、規則的な短時間の昼寝習慣は脳をリフレッシュさせ、意欲的な生活を送ることができます。その結果、活発で健全な精神活動が行われて、アルツハイマー病の発症を予防していると考えられます。アルツハイマー病を発症する危険因子には従来、遺伝子や加齢がいわれてきましたが、近年、ライフスタイルも重要視されるようになり、協調性を持ち、積極的に社会活動をする質のよい生活が、アルツハイマー予防に有効であると考えられています。

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