「早く起きなければ!」と思い過ぎると、ストレスホルモンが出て熟睡できませ

「注意睡眠」では脳は休まらない

日本では、電車でこっくりこっくり居眠りしているひとをよく見かけます。隣に座っているひとの振り子運動で迷惑したひとも、気が付かないうちに自分が隣に寄りかかりそうになったことのあるひとも、多いと思います。

自動車の助手席や、退屈な会議や授業中、これも居眠りしやすい状況です。こういう睡眠は、「注意睡眠」と呼ばれます。外部の刺激に常に対応できる臨戦態勢で、たとえば降りる駅に着いたときには起きなけれぼならないというような、あまり休んでいない睡眠状態です。

電車でも、座っていながら横のひとに寄りかかりそうになっていたとしても、そのまま床にぶっ倒れてしまうようなひとは、なかなかいないと思います。会議の席でも、イスをひっくり返して爆睡してしまうくらいならば、周りからも睡眠クリニックの受診をすすめられるかもしれません。

このような睡眠は、ノンレム睡眠の第1段階~第2段階でとどまり、漂い眠り= 徐波睡眠に入らないように脳が頑張っている、そういう状態です。

ベッドに入っている夜の睡眠でも、「注意睡眠」はありえます。朝早い飛行機に乗らなければならない、朝4時には起きなければならないなどというのも、緊張し注意を必要とする睡眠です。

いつ職場からの電話が入るかわからない待機状態、たとえば、わたしが月2回程度している病院の当直も、仮眠はできますが急な呼び出しにおびえながらの睡眠なので、注意睡眠といえます。

「朝4時に起きなきゃならない」という場合にアラームはセットしますが、アラームが鳴る前に目が覚めた、そういう経験を持っているひとも多いと思います。

「自己覚醒法」というのですが、これも「注意睡眠」のメカニズムに基づいています。

「元気のホルモン」が目覚めを誘う

人間の「注意睡眠」のメカニズムは、どうなっているのでしょうか?ひと晩の睡眠の実験では、イスラエル工業大学のグループによる自己覚醒研究があります。

健常者に自己覚醒を試みた実験ですが、結果は、自然な目覚め=自己覚醒のときの睡眠段階はレム睡眠が多く、自己覚醒を試みると、寝付くまでの時間が長くなる、というものでした。

夜明けにレム睡眠が多くなることを考えると、自然な結論ですね。さらに内分泌学的な分野でも研究が進んでいます。副腎皮質刺激ホルモン(ACTH) というホルモンが、自己覚醒と目覚まし時計などのアラームで起きる覚醒とで分泌量が異なることがわかってきています。

ACTHというホルモンは、その名のとおり副腎皮質を刺激します。そしていろいろな副腎皮質ホルモン、代表的なものとして生命のホルモンともいえるコルチゾルの分泌を増やします。ACTHはストレスに晒されると、はたらきが活発になります。したがって深い睡眠=徐波睡眠の多い睡眠前半部では、分泌は少なく抑えられています。

そして睡眠後半になるに従い、分泌量が増加し、朝起きた直後にピークに達します。「元気のホルモン」の分泌が起きる前からじりじり上がりはじめて起床直後に最高値になる、このはたらきによってわたしたちは目が覚めるわけです。

たとえば、「朝6 時に起きなければならない」という状況のもとでは、このACTHの値はどう動くのでしょうか?それを調べたのが、ドイツ・リューベック大学のヤン・ボーン教授らのグループで、1999年の「ネイチャー」誌に研究結果が発表されました。

午前9時まで寝るつもりでいた何人かの被験者を、条件を変えて3時間ほど早く起こす実験を行ったところ、ある時間に起きようと思って寝ると、その子定時刻の1 時間くらい前にこのホルモンの血中濃度が大きく上昇したのです。

よって教授らは、ACTHが「目覚め因子」であると結論づけています。しかし、目覚め、すなわち覚醒のメカニズムは、実はよくわかっていません。

目を覚ます時刻が近づくと、ホルモンなどの内分泌的なはたらきによって「起きるぞ!」という準備が進み、目が覚めます。ですから、自宅待機や当直中の睡眠では、ACTHの分泌量が増加していて、しつかり休めていなくてなんだか寝た気がしないのも、ホルモンのせいなのかもしれません。わたしも、ストレスに立ち向かうためのホルモンであるコルチゾルが出過ぎているのではないかと、当直室の硬いベッドに寝ながら心配になることがあります。

せめて自宅のベッドで眠るときくらいは、アラームを何個もセットするなど万全の用意をして、過度に緊張せず、リラックスして深く眠りたいものです。