医師が処方するメジャーな睡眠薬について、どれくらい知っていますか?
睡眠の悩み、と聞いて、「睡眠薬」を連想するかたも多いはずです。
規則正しい生活や食事だけではなかなか不眠が改善せず、「とにかく眠れない」「眠りたい」というとき、睡眠薬は助けになります。
医療機関で処方される代表的なものは、ベンゾジアゼピン系薬剤という種類のものです。脳のシナプス(神経細胞間の隙間)に存在するGABA というレセプターに働きます。
最近では、ベンゾジアゼピン系とは別の化学構造にもかかわらず非常によく似た作用を持ちかつ副作用の少ない、非ベンゾジアゼピン系薬剤が主流となってきています。
日本では、「マイスリー」や「ルネスタ」がこれに該当します。ドラッグストアで売っている睡眠薬は、抗ヒスタミンンン系のジフェンヒドラミンという物質です。
風邪薬や花粉症の薬で眠くなる成分と基本的には同じです。まったく異なるメカニズムの睡眠薬としては、2010年に承認されたラメルテオンがあります。
眠りのホルモンであるメラトニンの受容体を刺激して、人間の自然な眠りに近い睡眠を誘発させる薬剤です。覚醒を維持する「オレキシン」という物質をブロックする睡眠薬、スボレキサントも近々承認される予定です。スボレキサントは、副作用の少なさが注目されている期待の薬剤です。
作用時間の違う睡眠薬が、使い分けて処方されます
睡眠薬の大多数を占めるベンゾジアゼピン系の薬物には、作用時間(正確には半減期、薬がからだから分解・排出されるスピード)によって4種類に分類されます。超短時間型、短時間型、長時間型、超長時間型、の4種類です。
寝付きだけ悪いひとには、超短時間型ないし短時間型の睡眠薬を、夜中に起きてしまうひとには長時間型を、明け方早くに目が覚めてしまうひとには超長時間型を、というのが基本的な使い方です。
いずれも、薬を飲むことで眠る、という作用の点では共通しています。では、睡眠の深さは、いったいどうなるのでしょうか?
例外を除けば、ほとんどのベンゾジアゼピン系薬剤、抗ヒスタミン薬は、ノンレム睡眠の第2段階という、浅い軽睡眠の時間を増やします。
深い睡眠やレム睡眠の時間は「少なくはしない」程度であって、増加させるわけではありません。したがって、全体の睡眠に占める軽睡眠の割合は増えます。
抗うつ別にも睡眠をよくする効果があります
睡眠のための薬は、なにも睡眠薬ばかりではありません。抗うつ薬の「テトラミド」「レスリン(デジレル)」「レメロン(リフレックス)」も、睡眠作用があるので、主にうつ病のかたの睡眠をよくするためによく処方されます。
ベンゾジアゼピン系ばかりで睡眠を維持しようとすると、筋弛緩作用(ふらつきや、中止したときのリバウンド不眠など、副作用の可能性が高くなるので、ほかの系統の薬剤と組み合わせるのが、専門家の腕の見せどころです。
また統合失調症に主に使われる「セロクエル」「ジプレキサ」「リスパダール」などの非定型抗精神病薬と呼ぼれる薬剤も、睡眠に効果があることがわかってきています。
双極性障害など気分障害にも効果があるという報告もあります。臨床現場ではこの非定型抗精神病薬の登場機会が非常に増えてきており、統合失調症だけだった保険適用も以前に比べれば拡大してきています。
最近のトピックとしては、睡眠薬の多種・多剤併用の問題が挙げられます。特にベンゾジアゼピン系・非ベンゾジアゼピン系薬剤も含めて、2~3種類以上の睡眠薬を併用する必要性は低いとされています。
これらの薬剤の過剰処方は、いわゆる「ボーッ」とさせてしまい認知機能を落とす、あるいは「飲まないと不安」という依存性の問題があり、望ましくはないのです。
厚生労働省も問題視して、平成24年より睡眠薬を3剤以上処方した場合は、診療報酬が2割カットされることとなりました。さらに厚生労働省は研究事業として、「睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン」の作成に乗り出し、睡眠薬の過剰処方を防止しようと躍起です。眠りの薬は、ベンゾジアゼピン・非ベンゾジアゼピン系薬剤だけではないということを、強調しておきたいと思います。ほかの薬剤をうまく合わせていけば、状態が落ち着いたときに薬を減量・中止して「卒業」することができるのですから。
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